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鳩山前首相とベンチャー経営者の奇妙な共通点


 ハトちゃんは憎めない人だ。ハトちゃんとはもちろん前首相、鳩山由紀夫氏のことである。お坊ちゃんだとか宇宙人、何をやっているのか分からない、一度辞めると言ったのに前言を翻した、行動が軽いなどと散々小馬鹿にされているが、本人にはあまり堪えていないようだ。
 むしろ最近は意気軒昂。再び権力の掌握(?)を目指しているようにさえ見える。
 ところで、鳩山氏を見ていると、ベンチャー企業の経営者と妙に重なって見え、既視感のようなものを覚える。

1.強烈なオーナー意識

 「民主党は私が創った」
最近、鳩山新党結成の可能性が取り沙汰され、本人もその可能性を完全に否定はしないが、むしろ彼の中ではオーナー意識の方が強いから鳩山新党の可能性は低いだろう。
 第1次民主党は鳩山氏の資金なくしては生まれなかったのだから、これは私の党だ、君達は後から入ってきただけではないか、なぜ私が党から出ていく必要があるのか、という思いが強いはずで、それが上記の言葉になったと思われる。

 こうした意識はベンチャー・中小企業オーナーにも強く見かける。特に個性的な創業者に。そのこと自体は悪いことでもマイナスでもなく、むしろある種の原動力になっていることも事実だ。
 ただ、この意識が行き過ぎると会社の私物化に繋がる。結果、役員会とオーナー一族が対立し、オーナー社長が会長職に棚上げされたり、代表権を剥奪された例は多い。カジノで億単位の大金を使い、会社側に訴えられた製紙会社の例はまだ記憶に新しいだろう。

2.理想や夢に向かって突っ走る

 鳩山氏の評判は沖縄ではすこぶる悪い。米軍基地を「最低でも県外移設」と約束しながら、結局、沖縄に基地負担を押し付けたからだが、彼自身には約束を破ったとか、騙したという反省や意識はほとんどなさそうに見える。「私は今でも県外移設と思っている」と、最近再び口にしていることからも、そのことが窺える。好意的に考えれば、彼自身は本当にそうしたかったのかもしれない。

 こうした彼の姿勢を空想理想主義と批判することは容易いが、今の時代、理想を追い求める政治家は稀少というか、そういう政治家も必要ではないだろうか。
 現実的なことばかり考えるのではなく、非現実的、理想主義と言われようと、ただひたすら理想を追い求め、理想に向かって1歩でも2歩でも近づける努力をすることは、決してバカにされるものではない。本来、政治とはそうしたものではないか。
 ただ、鳩山氏がそういう努力をしていたかどうかとなるとかなり疑問だが、少なくとも彼にとって不幸だったのは、その理想を現実化するスタッフや実務家に恵まれなかった、いなかったことだろう。

 理想家と現実主義者がコンビを組んだ時、組織は強くなる。
これは企業でも同じで、よく言われることだがホンダは本田宗一郎氏だけではその後のホンダはなかっただろう。
 ベンチャー企業に限らず、創業者には夢や理想を追い続けた人が多い。会社を作ったり儲けることが目的ではなく、夢や理想を実現するために組織が必要だったから会社という組織を作ったのである。
 そういう人達にとって重要なのは組織経営、組織運営ではなく、夢や理想の方が上位に来ることが多い。だが、これは両刃の剣でもある。
 創業直後や組織が小さい時は、創業者の夢や理想が組織を引っ張っていく強力な原動力になる。
 ところが、組織が拡大していくに従って夢や理想に共感して加わってくる人より、ブランド力や待遇、安定性を求めて入ってくる人が増えてくる。後者の人達にとっては夢や理想はさほど上位に位置することはなく、それらを追い求めるのはむしろ非現実主義と映る。
 かくして組織内に乖離が起き、最悪の場合、創業者が組織から追い出される、あるいは自ら出て行く例は少なくない。
 これは善し悪しの問題ではない。要は何を追い求めるのか、どこで妥協するかの問題だろう。
 ある段階から夢や理想より、より現実的な会社経営の方に舵を切る経営者は多い。

3.金の切れ目が縁の切れ目

 そういう意味では、鳩山氏は現実政治の中でも未だ理想を捨てきれずにいる政治家かも知れない。だが、こうした政治家がドロドロとした(魑魅魍魎が棲む、とまでは言わないが)現実政治の中で力を発揮していくのは難しい。

 創業者の強みは組織を起ち上げたことでも、商品を開発したことでも、特許を取得したことでもない。オーナーであることこそが強みであり、それ以外にはない。
 ところが、そのことをよく理解していない創業者もいる。とりわけベンチャー企業の経営者の中には。
 オーナーである強みとは、端的に言えば金の強みである。資金力があるから人は集まってくるし、頼るのである。資金力がなくなれば、金の切れ目が縁の切れ目で、自分が追い出されるか、他の人達が去って行くかのどちらかになる。

 鳩山氏が民主党内で力を持っていたのは資金力があったからで、鳩山氏の資金なくしては民主党は存立しえなかったのだ。ところが、勢力が大きくなり始めると、鳩山氏の資金に頼らなくてもいろんなところから資金が集まってくるようになる。かくして鳩山氏の求心力は落ちていくことになる。
 彼はそうした動きを理解せず、いまだオーナー意識でいるから党内でどんどん浮いた存在になりつつあり、このままいくと彼が自分で創った党から出て行かざるを得なくなるだろう。

 非常に似通ったことはベンチャー・中小企業でも起きる。というよりベンチャー・中小企業の方が頻発する。
 危機は常に拡大期、成長期に訪れる。人員が急増することで、設立当初の理念、夢の共有が希薄になっていくし、他人資本の導入が図られていけば、創業者個人の資金に頼らなくても済むようになり、資金の自由力が増していくに従い活動の自由度も増し、設立当初の理念、夢からの自由度も増していくことになる。
 結果、気が付いた時には創業者の思い描いていた組織とは異なる組織になっていることが多い。その時初めてオーナー力とは資金力だということに気付くことになる。
 さて、金の切れ目が縁の切れ目とならないように、組織の経営、運営に努めたいものだ。

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